第2次安倍政権が間もなく幕を閉じます。
安倍総理が先週金曜の会見で持病の悪化による退陣を表明。後継の総理・総裁が決まり首班指名を受ける時点まで執務は続けますが、すでに後継総裁レースが熱を帯びてきています。
一方で、この政権が何を成したのか、あるいは成さなかったのか?
外交、安保、経済、構造改革、憲法改正、拉致問題、北方領土問題、あるいはスキャンダルめいたものまで、中には好き嫌いで書いたであろうものも含め、様々な角度から論評が行われています。
各国の首脳から惜別のSNSが多く寄せられていることでもわかる通り、外交においてはリベラル国際主義を堅持し、国際協調に腐心し続けたと海外からは高く評価されています。
一部、政権と距離を置くメディアからは、とかくトランプ大統領との蜜月関係を揶揄することに代表されるように、「エキセントリックな外国元首と仲がいい、変わった」総理というイメージ作りがされていました。
トルコのエルドアン大統領やロシアのプーチン大統領といった強権的なイメージの指導者と親密である一方、ドイツのメルケル首相や韓国の朴槿恵大統領(当時)らとは上手くやっていない、民主主義を大事にする指導者とはそりの合わない人物なのだ!という記事が当時国内でも散見されました。
が、実際にやっていたことはそうしたイメージとは正反対の国際協調主義でした。
たしかに強権的に見える指導者とも親密でしたが、一方でオーストラリアのアボット首相(当時)やインドのモディ首相、台湾の蔡英文総統といった世界の民主主義国の指導者とも気脈を通じていましたから、政治手法で付き合いを決めるようなことはなかったはずです。
政権発足当初は韓国や中国の宣伝戦もあり、欧米諸国から"日本に極右の総理が誕生し、歴史修正主義者がやってくる"と警戒されたようですが、それを一つ一つ行動で跳ね返していきました。
官邸の高官ら総理外遊に同行した人々に取材をすると、政権発足から1年、2年が経ち、徐々に各国との間で信頼関係を構築していきましたが、特に2015年4月のアメリカ公式訪問でガラッと雰囲気が変わったと言います。
すなわち、連邦議会上下両院合同会議で英語で演説。日米同盟を「希望の同盟」と表現し、先の大戦で干戈を交えた両国が世界をリードする盟友となったこと、和解の歴史を堂々と演説した、あの訪問です。
当時はバラク・オバマ大統領の時代。この演説が、その後のオバマ大統領の歴史的な広島訪問につながり、さらに真珠湾で大統領とともに慰霊するという和解外交につながっていきます。
戦後70年談話にあったように、子々孫々まで謝罪し続けることのないよう、我々世代で区切りとする。これを実践したわけです。
この、慰霊と区切りの儀式はオーストラリアとも行いました。
戦争中、日本軍はオーストラリア北西部のダーウィンを空襲し多数のオーストラリア人が亡くなりました。
その慰霊をモリソン首相とともに行ったのです。このことは、総理退任に宛てたモリソン首相のツイッターで花輪を手向ける写真とともに、忘れることのない印象的なシーンとして紹介されています。
そして、自由・人権・法の支配といった普遍的な価値観を共有する各国が連携していくという「価値観外交」を提唱し、アジア太平洋地域では当初「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を発表。
日本・アメリカ・オーストラリア・インドが連携してアジア太平洋地域の平和と安全を確保していくという道を示しました。
その後、2016年8月、初めてアフリカで開かれたアフリカ開発会議(TICAD)でさらにインド洋、その先のアフリカ大陸までを視野に収めた「自由で開かれたインド太平洋戦略」に結実します。
この、価値観を重視した多国間協調主義は日本外交の基軸として次の政権も、その次の政権も維持すべきものであると考えます。
もう一つ、国内のメディアがあまり評価しないのが、経済政策。
アベノミクスは道半ばだったというのが、ほとんど枕詞のように使われています。
たしかに、道半ばでした。が、それは成果を挙げられなかったというものではなく、途中まで成果が挙がっていたのにそれを自ら潰してしまったという意味です。
具体体には拙著『「反権力」は正義ですか ラジオニュースの現場から』(新潮新書)に記しましたが、もともとのアベノミクス3本の矢、中でも①大胆な金融緩和、②機動的な財政出動によって2013年から経済は急回復しました。
その政策を続ければ、今頃はもっともっと経済成長を遂げ、GDPは600兆を優に超えていてもおかしくなかったはずでした。
しかし、前政権が合意した「3党合意」に縛られる中で2014年4月に消費税を5%から8%に上げてしまいました。
その後は経済が大きく落ち込むことこそありませんでしたが低空飛行を続け、さらに2度の延期を経て2019年10月に消費税は10%へ。
そこへコロナショックが来て経済がガタガタになったのは記憶に新しいところです。
どうして増税を強行するのか?当時、官邸の関係者とよく議論しましたが、最終的には目的税化されていて各省庁がそれを予算に当て込んでいるから今更変えられないと苦渋の表情を見せました。
教育の無償化や社会保障の充実の財源として紐づけられているので厚生労働省や文部科学省が、地方消費税の部分は各自治体の予算と直結するので総務省がそれぞれ財源としていますから、霞が関がほとんど一体となって消費税増税に邁進しているのに対し、総理官邸は抗しきれずにいました。
その姿は、「独裁・強権」という世間のイメージとはかけ離れていました。
「マスコミの言うような独裁的な強力な政権だったら、こんなに苦労しないさ」
切なそうに呟く姿が強烈に印象に残っています。
財政出動が、財政健全化への縛りで制限される中、金融緩和頼みだったことは否めませんが、それでも失業率は2%台半ばまで大きく改善させ、有効求人倍率は1.6倍台まで引き上げました。
労働組合の代表さながらに経済界と交渉し、毎年のように賃上げを要請。
官製春闘などと揶揄されましたが、むしろ批判すべきは政府にお株を奪われてしまった組合側でしょう。
なぜこれを、労働組合の元締めである連合がバックについていた民主党政権時代にできなかったのか?この反省なく政府批判ばかりしていても支持を得られないのは明白だろうと思います。
特に、雇用情勢の影響を最も受けるのは非正規雇用者と新卒者です。
日本の労働慣行上、一度正社員として採用されればおいそれとクビにできませんから、非正規雇用や新卒採用の数を調整弁としています。
経済が失速し、雇用情勢が悪くなると、真っ先にここを切って調整しようとするのです。
逆に、雇用情勢が改善すれば真っ先に恩恵を受けるのも非正規雇用者や新卒者です。
これらは比較的若い世代が多い層ですから、若い世代に政権支持者が多いのもうなずけます。
若年層で政権の支持率が高いなんて、若者の右傾化だ!としきりに批判されましたが、それは根本から社会の有り様を見誤ったインテリの愚痴でしかありませんでした。
なにより、右派だ、ナショナリストだと批判を受けたこの政権は、経済政策では消費増税以外リベラルそのものでありました。
当時官邸幹部は「先に最低賃金だけ上げてもダメで、企業業績を上げさせて、その上で賃金アップをしてもらう。この道しかない」としきりに繰り返していました。
それだけではありません。外交においてもやはりリベラル国際主義そのものであったわけです。
7年8カ月を支え続けた官邸幹部は、
「右派と見られている政権がリベラル政策をやるから、みんな納得してくれるんじゃないかな」
と話しました。
とかく分断を生んだ政権であったと総括されることもある第2次以降の安倍政権ですが、こうして具体的な政策を見てくると、実は包摂を目指した政権ではなかったかと思います。
■第2次以降の安倍政権、主な政策
2012年12月 第2次安倍政権発足
2013年1月 中国海軍レーダー照射問題
2013年2月 北朝鮮が核実験
2013年3月 TPP交渉参加を表明
2013年4月 日銀が量的・質的金融緩和を発表(いわゆる黒田バズーカ)
モスクワで日露首脳会談
2013年9月 2020オリンピック・パラリンピック開催地が東京に決定
2013年12月 NSC設置
特定秘密保護法成立
安倍総理、靖国神社参拝
沖縄県・仲井真知事が辺野古埋め立てを承認
2014年4月 消費税8%に引き上げ
2014年5月 内閣人事局設置
2014年11月 消費税10%の先送りと解散総選挙を表明
2015年4月 日経平均株価2万円台回復
アメリカ公式訪問。連邦議会上下両院合同会議で演説。
2015年6月 18歳選挙権を定める改正公職選挙法の成立
2015年8月 戦後70年談話発表
2015年9月 平和安全法制が成立
2015年10月 沖縄県・翁長知事が辺野古埋め立て承認を取り消し
2015年12月 慰安婦問題に関する日韓合意
2016年1月 北朝鮮が核実験
2016年5月 G7伊勢志摩サミット開催
米オバマ大統領が広島訪問
2016年8月 北朝鮮の中距離ミサイルが日本のEEZ内に着水
2016年9月 北朝鮮が核実験
2016年12月 山口県でロシア・プーチン大統領と首脳会談
ハワイ真珠湾訪問・オバマ大統領と慰霊
2017年2月 森友学園問題を朝日新聞が報道
ホワイトハウスでトランプ大統領と初の首脳会談
2017年5月 加計学園問題を朝日新聞が報道
2017年6月 組織犯罪処罰法改正案成立
皇室典範特例法成立
2017年7月 韓国・文在寅大統領と首脳会談
陸上自衛隊日報問題で稲田防衛大臣らが辞任
2017年9月 北朝鮮が核実験
2018年6月 働き方改革法案成立
2018年10月 中国で習近平国家主席との首脳会談
2018年12月 韓国海軍レーダー照射問題
TPP11発効
2019年5月 天皇陛下御即位と令和への改元
トランプ大統領来日
2019年6月 イラン・ハメネイ最高指導者と会談
2019年8月 韓国を貿易管理上のホワイト国から除外
2019年10月 消費税10%に引き上げ
2020年3月 東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定
2020年4月 新型コロナウィルスに伴う緊急事態宣言
2020年6月 検察官の定年延長を含む国家公務員法改正案が廃案に
2020年8月 28日、総理辞任を表明
2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を受けて日本政府は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言を発令しました。16日には対象を全国に拡大、13都道府県が特定警戒都道府県に指定されました。
7日の緊急事態宣言から10日ほどが経過した、ニッポン放送のある日比谷・有楽町。店舗や施設の休業、イベントや集会の中止、在宅勤務により、平日でも人が少なく閑散としています。日本のみならず世界の経済は停滞し、IMFは今年の世界経済が大恐慌以降で最悪の景気後退に陥る可能性が高いとの見通しを示しています。
私はニッポン放送のラジオ番組「飯田浩司のOK!Cozy up!」の中で、新型肺炎について1月2日から警鐘を鳴らしてきました。が、初期段階からここまでの事態になることを予測できるはずはなく、報じるタイミングでの事実をベースに、その後起きうる可能性を含めて解説してきたつもりですが、そのほとんどにおいて、楽観的な可能性は症例が増えていく中で医学的に否定され、悲観的な可能性が現実のものとなっていくことが繰り返されています。
本稿では、新型コロナウィルスについてこれまでの経緯を改めて振り返り、「コロナ後の世界」に向けて今我々は何をすべきか、考えていきたいと思います。
2019年12月31日。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏がレバノンに逃亡したというニュースが日本を騒がせた日、「中国・武漢で原因不明の肺炎」という不気味なニュースが報じられました。「中国湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎の発症が相次いでいる。同市当局の発表によると、これまでに27人の症例が確認され、うち7人が重体という。中国政府が専門チームを現地に派遣し、感染経路などを調べている」(朝日新聞)。実はこの前日、武漢市の眼科医・李文亮氏がグループチャットに「武漢市の華南海鮮市場でSARSが発生している」と発信。李医師は虚偽情報を流したと警察から処分を受けた後、自身も新型コロナウィルスに感染、2月7日に亡くなりました。(後に中国当局は李医師への処分を撤回)
2020年1月7日には肺炎の原因が新型のコロナウィルスであることが判明。16日には日本国内でも武漢市から帰国した30代中国人男性の感染が確認されました。23日、武漢市が都市封鎖を宣言しますが、WHOは24日、緊急事態宣言を「時期尚早」と見送り。この頃、中国では春節の連休が始まります。29日、日本政府は武漢から邦人を帰国させるためのチャーター機を派遣。そして31日、中国以外の国々での感染者数増加を受け、WHOが公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。
2月5日、集団感染が発生し横浜沖で停泊していたダイヤモンド・プリンセス号の乗員乗客に14日間の隔離措置を開始。8日、武漢在住の日本人男性が死亡。日本人初の死者となります。11日、WHOが一連の疾患を「COVID-19」と命名。13日には神奈川県在住の80代女性が死亡。国内初の死者となりました。24日、日本政府の専門家会議が「この1〜2週間が感染拡大に進むか、終息するかの瀬戸際」との認識を発表。27日、日本政府が全国の学校休校を要請します。
3月5日、日本政府が中国の習国家主席の来日延期を発表。中国と韓国全土からの入国制限も実施します。11日、WHOが「パンデミックに相当」との見解を発表。13日、日本の国会で新型インフルエンザ特別措置法が可決。アメリカではトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。19日、政府の専門家会議が「オーバーシュート」による医療崩壊と、「ロックダウン」措置の可能性を懸念。20~22日は全国で花見や大型格闘技イベントが開催され、いわゆる"自粛が緩んだ"と言われた3連休です。24日、東京オリンピック・パラリンピック開催の1年延期が決定。27日にはイギリスのボリス・ジョンソン首相の感染が確認され、29日にはタレントの志村けんさんが新型コロナウィルスによって亡くなりました。
そして4月7日、止まらない感染拡大を受けて日本政府は7都府県を対象に緊急事態宣言を発令します。16日には緊急事態宣言の対象を全都道府県に拡大、13都道府県が特定警戒都道府県に指定されました。16日の時点で、全世界の感染者数は約205万人、回復者は約51万人、死者約13万人。日本では感染者数8,582人、回復者901人、死者136人となっています。
こうして振り返ってみると、改めて感染拡大の早さに驚かされます。新型コロナウィルスの感染力の強さを示す基本再生産数(R0)は、WHOで1.4~2.5と推定されており、季節性インフルエンザの2~3やSARSの2~5を下回りますが、新型インフルエンザ(H1N1)の1.4~1.6、MERSの0.6よりも高いとみられています。新型コロナウィルスの感染の特徴として政府の専門家会議は、「症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大」させ、また「一定条件(いわゆる3密)を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染」させることでクラスターが発生、これが連鎖し、感染が急速に拡大していく可能性を指摘しています。なお、日本全国の実効再生産数(ある集団のある時刻における再生産数)は現在1前後、東京都では1.7(3/ 21~30)と、専門家会議は推計しています。
また新型コロナウィルスの致死率(死亡者/感染者)は初期段階、WHO等により2~3%程度と推計されていましたが、欧州で流行してから高まってきており、現在世界平均で約6.4%。感染していても気付かないケースが多く実際の致死率はもう少し低いとみられており、現時点ではかなり変動的です。SARSの致死率約10%、MERSの約34%と比べると低いとはいえ、季節性インフルエンザの0.1%と比較すれば遥かに高く、WHOは2009年に流行した新型インフルエンザと比べても致死率が10倍高いとの見解を示しています。国別で見ると、日本は致死率約1.5%、アメリカは約4.4%、イタリアは約13%、ドイツは約2.5%、フランスは約12%、イギリスは約13%、中国は約4.1%、韓国は約2.1%。日々変動しますが、国によってかなり差があります。日本は"検査対象を絞っているから感染者数が少ない"と一部で批判(医療崩壊を防ぐためなのですが)されることがあるのですが、(感染者数が少なければ致死率は上がりやすいにも関わらず)世界の中でもかなり低い致死率にとどまっています。
「若者は重篤化しない」「春になれば消えるさ」「アメリカのCDC(疾病対策センター)は最強」などの楽観的な見方が、症例を重ねるにつれてことごとく「そうじゃなかった」と分かっていく中で、日本の感染者数・致死率が比較的低く抑えられているのは、多少の好材料ではあります。ただその理由については「BCG接種の影響説」などあるものの、現状でははっきりと分かっていません。
また「毎年流行する季節性インフルエンザのほうが被害が大きい」という意見があります。16日時点の新型コロナウィルスの感染者8,582人(回復者901人)、死亡者136人に対して、季節性インフルエンザは年間感染者数が約1000万人、直接的及び間接的な年間死亡者数は約1万人と厚労省は推計しています。確かに現状の数字では、例年の季節性インフルエンザの方が被害が大きいのは事実です。しかし東北大学の押谷仁教授は新型コロナウィルスについて、『重症化した人ではウイルスそのものが肺の中で増えるウイルス性肺炎を起こす』、『感染連鎖が非常に見えにくい』、『対抗するワクチンや治療薬、有効なツールがない』ことを指摘し、季節性インフルエンザと同列に見ることに警鐘を鳴らしています。
新型コロナウィルスは新たな世界的脅威です。まだ分かっていないこともたくさんあります。それぞれのフェーズで、暫定的な結果から導き出された「仮説」には、正しかったことも、結果的に間違っていたこともあります。事態が流動的である以上、受け取る側が常に情報を更新し、精度の高い状態に保つ必要がある、そんな状況なのだと思います。私は現在、ニッポン放送でニュース番組を担当しています。放送に至る過程で取材と事実確認を行い、精度を高めた情報を提供しているつもりです。先が見えないこの時代、流動的な状況に対応して事実に即した更新情報をお届けすることが、「コロナ後の世界」に意識を向ける『希望』へつながるのではないかと思うのです。
「新型コロナウイルス禍」が本当の収束を迎えるのはワクチンが完成し、普及した時でしょう。それを含めて集団免疫を獲得した時とも言えるかもしれません。しかしそれは1年半~2年後くらいだろうと言われています。それまでどういう状態が続くのでしょうか。まず現状の「緊急事態宣言」状態が専門家会議の試算通りに運用されれば、感染拡大は抑えられるはずです。しかし経済活動に極めて強いブレーキがかけられているので、不況による死者が出ないように政府が巨大な財政出動を行なったとしても、社会全体への負荷は計り知れません。そこで、感染の状況を見て自粛のブレーキを緩めるタイミングがいずれ来るでしょう。その結果、再び感染が一気に拡大しては元も子もありません。極めて繊細な運転が求められます。地域ごとの状況に合わせた対応も必要でしょう。私も書きながら行政にとって非常に難易度の高い運用だろうと思います。有効な治療薬が見つかればその難易度が下がるかもしれません。また、中国のような独裁的で監視可能な統治方法であれば、ひょっとしたら比較的容易に実現できるのかもしれません。でも日本が民主的で自由な社会でありつつけるには、今の枠組みの中で団結し、乗り切る必要があるのです。
「サピエンス全史」などで知られるイスラエルの歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は朝日新聞(4/15)のインタビューで、感染症の脅威にうまく対応できるのは、長い目で見れば独裁より民主主義であると指摘し、「独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、速く行動することができる。しかし、間違った判断をした場合、メディアを使って問題を隠し、誤った政策に固執します。これに対し、民主主義体制では政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです」と述べています。
緊急事態宣言が発令されたあと、一部識者やメディアがこの宣言について「自粛"要請"でどこまで効果があるのか」と批判していました。そうした批判があること自体は、我が国に言論の自由がある以上何の問題もありません。が、以前は「私権を制限する権限を政府に与える緊急事態宣言は危険」と批判してきたのに、発令された途端に今までの言説と逆行し、私権を制限することを容認するような意見を平然と述べる姿に驚かされました。彼ら、彼女らにとっては「政権批判」で一貫しているのでしょうが、その言説は見事にねじ曲がっています。そして、政権批判のためには私権の制限すら主張してしまうというのは、私は危険な思想だと思います。民主主義国家にとって私権は大切にしなくてはならない普遍的な価値です。このような国難にあって一部制限せざるを得なくなっても最小限にしなくてはならないし、適切な権力行使であったかを事後にきちんと検証できなくてはいけません。そうした留保もなしに一足飛びに「要請ではヌルい」となれば、それは独裁と監視社会を自ら呼び込むことに他ならないと思うのです。
今はまさに「コロナ後の世界」にふさわしい統治システムがどうあるべきか、試されている歴史的な転換点なのだと感じます。私達国民は政府に、国会に、徹底した政策議論を求めて民主主義の強さを発揮させ、自分たちも感染拡大防止に有効な行動をとり、団結してこの戦いに勝利しなければなりません。コロナへの恐怖で前を向くことを諦めたり、感情的な分断に陥れば、人類はウィルスに敗北し、「コロナ後の世界」は、私たちの祖国を含めて、独裁と監視が支配する偏狭なものとなってしまうでしょう。今こそ「知識」と「見識」を尊重し、冷静で多角的な視野をもって行動することが、『コロナ後の世界』に希望を見出すことにつながるのだと、私は強く思っています。共にこの国難を乗り切りましょう。
1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。
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